昭和50〜60年代の不良少年たちは、学ランや髪型、改造バイクといったスタイルで自分を主張していた。そんな彼らにとって、財布は単なる実用品ではなく“見せるための小道具”でもあった。鎖でベルトループにぶら下げ、仲間内で「どこのブランドか」を競い合う。なかでも人気だったのが、「クリームソーダ」「ペパーミント」「フレッシュボックス」「カルコーク」という4つのブランド。当時の価格感や購入ルートとともに、それぞれを振り返ってみよう。
◆クリームソーダ◆

ガイコツが放つ圧倒的存在感
「クリームソーダ」は、原宿のショップ「ピンクドラゴン」から派生したブランドで、海賊船の旗印を思わせるスカルをあしらった財布のタグは、70〜80年代の不良少年にとって特別な“勲章”だった。無地とヒョウ柄があったが、人気はヒョウ柄。なかでも紫や赤、黄色など原色に近い色が人気で、地域によっては“格によって持てる色が決まっていた”という話もあるほどだった。
当時の価格でも3000~4000円前後で購入できたが、それでも中学生くらいだと決して安い買い物ではなく、また、販路が充実していたわけではないので、どこでも購入できるような代物ではなかった。
地方でも、都市部の(主に変形学生服を販売しているような)学生服専門店などで購入できることはあったが、それ以外の購入ルートは主に原宿の直営店か、雑誌に載った通販広告くらい。地方のヤンキーにとっては「東京に行った誰かに買ってきてもらう」憧れのブランドだった。
現在は、本来的なロカビリー&ロックンロール好きのためのショップとして存続していて、当時のままの長財布なども販売中。かつてのツッパリ少年が、当時を懐かしんで購入していくことも珍しくないという。
■公式サイト■
ピンクドラゴン
◆ペパーミント◆

“都会の香り”を持ち帰るブランド
当時のツッパリ少年たちのあいだでクリームソーダに次ぐ人気を集めていたのが「ペパーミント」。ロカビリーやロックファッションを背景に、不良文化に寄り添ったアイテムを展開していたブランドで、コブラのタグがより厳つい印象を与えていた。
価格面でもクリームソーダと大差はなく、当時の中・高生には十分高額ではあったが、頑張れば手に入る“背伸びブランド”として注目を集めた。
ペパーミントで人気だったのは無地の、なかでもミントグリーンの財布。ブランド名に近い色あいだから、というわけではなく、独特で印象的なカラーリングが受けたのだろう。地方のヤンキーにとっては、雑誌の誌面で見た都会的なデザインを地元に持ち帰ることが一種のステータスになったブランドだった。
現在は実店舗での販売は限られていて、ネットショップがメイン。長財布は現在も販売しており、当時の熱気を知る世代にとっては懐かしい響きとなっている。
■公式サイト■
TOKYO PEPPERMINT,.LTD
◆フレッシュボックス◆

身近で買える“革財布デビュー”
タグにはハイヒールのイラストが施されていた「フレッシュボックス」。長財布の配色は赤や青・ピンク・紫などのヒョウ柄と無地。クリームソーダとよく似ている……というか、酷似していた。柄だけではなく、内側の形状や刻印を打っているデザイン性など、うり二つと言っていいくらいに似ていた。
とはいえ、クリームソーダよりは手頃な価格帯で、クリームソーダが手に入らないけどフレッシュボックスなら手に入る……という現象も発生していたようで、それなりに所有者も多かった。
地元の衣料品店や小さなファッションショップでも取り扱われていたため、地方の若者でも入手しやすかったのが大きな特徴。クリームソーダやペパーミントに比べれば話題性は弱かったが、その分、実際に多くのヤンキー少年のポケットを占めた「身近な相棒」だったといえる。
現在ではブランド展開は見られず、当時のアイテムが古着市場で散見される程度。しかし、バイクのパーツと同様、新品は入手できないという状況から出品されている長財布はかなりの高額が付けられているケースが多い。何がどう影響するか、わからないものだ。
◆カルコーク◆

派手さはないけれど“等身大”で付き合える
「カルコーク」は、ブランド名からしてアメリカ文化を意識した存在で、自由で気取らない雰囲気を売りにしていた。発祥が埼玉、ショップの一号店が群馬の高崎ということで、北関東方面ではそれなりに知名度があったと聞く。
財布のタグの柄はルージュ。黒や赤を基調としたデザインが多く、価格は数千円程度と買いやすかった。地方の衣料品店やデパートの小物売場で見かけることも多く、地元で気軽に買える点が魅力だった。
クリームソーダのように圧倒的なカリスマ性はなかったが、無理をせずに持てる“等身大ブランド”として、ヤンキー少年の日常を支えた存在だった。
現在、直営のショップやウェブは見当たらないが、「cal-coke」のアパレルを販売しているショップは存在している。SOLD OUTになることもあるようだが、黒革無地の長財布はリストにもあるため場合によっては購入も可能なようだ。
長財布四天王が残したもの
振り返ると、この4ブランドはそれぞれに役割があった。クリームソーダは“高嶺の花”としての象徴性、ペパーミントは“都会的な憧れ”、フレッシュボックスは“等身大の入門編”、カルコークは“日常に寄り添う存在”といった具合だ。購入ルートもまたブランドごとに違い、原宿で直に買える人もいれば、雑誌広告で取り寄せたり、地元の店で手頃なブランドを探す人もいた。
今振り返れば財布一つで仲間内の序列を測るのは少し大げさにも思えるが、それだけ物やブランドに意味を託した時代だったといえるだろう。現在は多くのブランドが姿を消してしまったが、名前を聞けばすぐに当時の風景がよみがえる人も多いはずだ。昭和のヤンキー文化は、こうした財布ブランドによっても支えられていたのである。