「疾風伝説 特攻の拓」(以下、「特攻の拓」)の復刻版が発売され、若い世代を中心にヤンキー、旧車ブームがにわかに起こっている。現代ではほとんど見かけることがなくなった昭和の暴走族のエピソードが令和を生きる若い世代の読者の心を打つ理由、そして「特攻の拓」のリアル版とも言える「ドルフィン」の2作品が本当に伝えたいメッセージとは……「特攻の拓」の作者である所十三氏とヤンキー界の重鎮、岩橋健一郎氏が現代を生きる読者たちに向けて余すところなく語ってくれた。
パート2はこちら:「特攻の拓」作者・所十三&岩橋健一郎の最強タッグが「ドルフィン」を語る! 令和のヤンキーマンガの担う役割とは?
―― ちなみに所先生は「特攻の拓」や「ドルフィン」にも登場する単車を実際にご覧になったことは?
所氏 以下、所 私は単車に乗らないですけど、実際に見てみたいなって思いはずっとあります。作品を描く際、旧車會の単車も資料としていますが、やっぱり美しいものは美しい。反戦主義ではありますが、たとえば兵器の造形としての美しさにはどうしようもなく惹かれるんです。機能美って簡単に言うけれど、突き詰めすぎるとつまらなくなってしまうし、微妙なラインがあるんです。単車も名のあるデザイナーさんがデザインして近未来的になっていくと、それはそれでカッコイイかもしれないけれど、次第につまらなくなってしまうような気がするんです。
―― 所先生の中には好みの単車もありますか?
所 もちろんあります。中には「これはやりすぎだろう」と思う時はありますけれど、それはそれで面白いかなとか。何をもってカッコイイとかっていうのはないし、すごく古くてもバランスが悪くてもカッコイイし、何とも言えない魅力を感じることもある。ピカピカのものだけでなく、使い古された単車にも味がありますよね。
―― 「ドルフィン」に登場する単車に装着されている角目4灯なんかもそうですよね!
岩橋氏 以下、岩橋 当時の角目4灯は今のものとも違って見た目の割にあまり照らせていないんですよ(笑)。完全に見た目ありきのものですからね。
所 そうなんですか!? 私は作品の中に描くだけなので実際どういうものか見たことがないので……。
岩橋 私から言わせてもらうと、所先生がこうした単車に対する知識が少ないというのも「特攻の拓」や「ドルフィン」のヒットにつながっていると思います。不良やヤンキーの世界に精通していない方がその世界をのぞき見ることで、一般の読者たちに浸透していくんです。これが元ヤンキー、暴走族経験者がマンガにすると一部にしかわからないあるあるばかりでコアでオタクすぎる話になってしまう。それだと共感できないんですよ。
―― 「特攻の拓」「ドルフィン」を読んでいる現代の不良少年・少女たちに所先生からメッセージはありますか?
所 私自身は決して単車に詳しいわけではないのですが、漫画家として思うのは「命は大切にしてほしい」というのはあります。あと、あまり暴れないで欲しいなって(笑)。「特攻の拓」も連載当時、何かしらの青少年の事件が起きた直後に掲載された話は暴力シーンがカットされたり、「流血シーンは減らしてほしい」っていうオーダーが出たりするんですよ。なので皆様には安全に単車を楽しんでもらいたいなって。
―― 「特攻の拓」が連載していた当時のマガジンは300万人もの読者がいて、影響力が今以上にありましたからね!
所 きっと「特攻の拓」がすべてにおいて影響しているわけではないと思うんですが、世の中のマンガが嫌いな大人たちはそういう事件が起こるとすぐにマンガに結び付けて非難をするので、出版社はそうした世間の声を気にしてそういうシーンを抑えたりするんです。だから週刊誌に掲載された絵柄と単行本とで暴力シーンや流血シーンの描き方が異なるケースもありますよ。
岩橋 でもね、私から言わせてもらうと「特攻の拓」や「ドルフィン」が伝えたいのってそういうことじゃないんだよね。さっきも少し話したけれど、この2作品が伝えたい本当のメッセージは「仲間のありがたさ」なんだよ。今の子たちはTwitterやInstagramとかのSNSで繋がった友達……今だとフォロワーって言うのかな? ネット上で繋がった関係だからリアルな繋がりが少ないし、集まるとなるとそれこそ一大イベントみたいな感じになる。要するにいい時にしか集まらないよね?
―― 確かにそうですね。ただ、それが普通なのかな?って思ってしまいますが……
岩橋 だけど、不良は違う。仲間の誰かが困った時にこそ集まるの。普通の人とは逆で文化が違うの。そこなの! 同じ人間がやっている物語だけど、「特攻の拓」や「ドルフィン」で描かれている世界は普通の人たちとは文化が違うんだ。誰かのために何かをする、仲間が困っているからみんなで助けてやるっていうね。たとえ警察に逮捕されてしまうとしても、仲間を守るためならば自らを差し出すくらいの思いが不良たちにはあるんだよ。
―― そうした不良たちならではの仲間を思う気持ちの熱さが、人間関係が希薄になりがちな今の時代には奇特に見えるし、読者の胸を打つんですね。
岩橋 そう。仲間の誰かが襲撃されたならメンバー全員でやり返しに行くし、それが原因で警察沙汰になったら「自分が(警察に)行くから、お前らは『知らない』ってことにしておけ」と言って自らを差し出す……確かに一般的には悪いことをしているのかもしれないけれど、これって真の友情じゃない? そうして繋がった人間関係は友達以上のもの、「マブダチ」になるの。今、「マブダチ」なんて言葉は死語じゃない? そうした不良ならではの人間関係が構築されていくところが今の若い世代に伝わるといいな。
―― 「特攻の拓」や「ドルフィン」が描かれた昭和と現在の令和の時代とで、こうした熱い気持ちを持った不良、ヤンキーの子たちに違いはありますか?
所 不良やヤンキーの経験がある子と深く付き合ったことがないし「特攻の拓」を支持してくれた読者のほとんどはヤンチャした経験もない、いわゆる普通の子なんですよ。彼らと暴走族やヤンチャなことをしている子たちとの共通するところを見つけて描かないとマンガとしては成立しないので、その部分においては昭和も令和も関係ないかなって思います。いつの時代も読者の心を打つものや人が惹きつけられるものは変わらないし、特に今は「人間臭い部分」というのが薄れてきていますからね。
🙌1日1ヤンキー🙌277ヤンキー
ドルフィン・岩城源太郎
当漫画の主人公‼️
ちっさな頃からマジの悪ガキ‼️
ヤンキー界の重鎮、岩橋さんの自伝的漫画‼️
リアルでおもしろい🎵#横浜#1980年代#暴走族 pic.twitter.com/z32SwyriPs— ズンズンポイポイ ・たろう (@zp_rk) April 5, 2019
―― 「人間臭い部分」がファンタジーとして描かれているという感じですか?
所 ファンタジーと言っても「東京卍リベンジャーズ」のタイムリープみたいな意味じゃなくて、友情や自分なりの正義のために命を張る…といった現実世界じゃなかなかお目にかかれなくなったものって意味でのファンタジー。そんな不良の美学を描くことで今の読者に何か伝わってくれればと思います。
―― では、最後にここまでこの記事を読んでくれた「i-Q JAPAN」の読者に一言お願いします!
岩橋 とりあえず、誰もが知っている伝説のマンガ「特攻の拓」が今、再び社会現象になっているでしょう? その中で「ドルフィン」は「特攻の拓」の登場キャラクターたちが憧れた世界なんだよ。その意味をよく噛みしめた上でこの2作品を読んでもらえると嬉しいな。だから早く読めよ!!
所 岩橋さんが見事にまとめてくれちゃったね(笑)。というわけで、「特攻の拓」「ドルフィン」ともどもよろしくお願いします。
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所十三氏のプロフィール
【PROFILE】 所十三(ところ・じゅうぞう) 84年のデビュー作『名門!多古西応援団』(月刊少年マガジン、講談社)から『仰げば尊し!』(週刊少年マガジン、講談社)と、ツッパリ少年を主人公とした作品で人気を集め、91年連載スタートの『疾風伝説 特攻の拓』(原作:佐木飛朗斗、週刊少年マガジン、講談社)の大ヒットに至って『不良漫画のカリスマ』と呼ばれる存在に。
公式Twitter
岩橋健一郎氏のプロフィール
【PROFILE】 岩橋健一郎(いわはしけんいちろう) 青少年不良文化評論家。少年時代を暴走族「横浜連合鶴見死天王」として過ごす。暴走族引退後は当時の経験を活かし、全国の不良少年たちの声を拾い上げている。月刊チャンプロード誌上では約30年間にわたって現役暴走族たちをインタビューしてきた。現在も各種メディアで不良少年の声を代弁する、ヤンキー界の重鎮。
公式Twitter
告知①
岩橋健一郎氏が3月29日(水)よる10時放映の『水曜日のダウンタウン』に出演!
Tverでの見逃し配信はこちら:水曜日のダウンタウン「喧嘩・形」の大会、意外と盛り上がる説 ほか
告知②
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岩橋健一郎氏原作・所十三氏作画のリアル・特攻の拓と噂の『ドルフィン』最新刊14巻は秋田書店より絶賛発売中!
2023年1月20日
マンガクロス「ドルフィン」
第14巻発売、皆さん
夜露死苦(■_■)ゞhttps://t.co/lWUAIVArQZ pic.twitter.com/xlN3gBdG6W— 岩橋健一郎@ドルフィン (@yankee4649) December 26, 2022